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佐藤一朗の「勝つ為のトレーニング」第5回

 

 

みなさんこんにちは佐藤一朗です。前回まででトレーナーズハウスで行っている基本的なトレーニングに対する考え方を説明しましたので、今回はもう少し実際のトレーニングに近い形で具体的な説明をしていきたいと思います。

 

<トレーニングプログラムの作成>

測定や解析によって選手の改善点が抽出出来たらいよいよトレーニングプログラムの作成です。トレーニングプログラムを作成する際に最も留意しなくてはならないのは、行うトレーニングの生理的効果を理解して目的に応じた負荷・時間・回数・距離などの諸条件を設定する事です。なぜなら生理的効果を理解していなければ、一見同じ様なトレーニングを行っていても身体に与える刺激は全く別の物になってしまうからです。分かりやすくするために1つの例を上げてみましょう。

 

サンプル : ダッシュ力を強化を目的とした低速からのダッシュトレーニング

ここに3種類のプログラムを作ってみました。それぞれのトレーニングメニューによって身体にどんな刺激が入るか少し考えて見ましょう。

①ウォークアップダッシュ 200m × 3本 インターバル 3周(1200m) 49-15T

②ウォークアップダッシュ 200m × 3本 インターバル 3周(1200m) 49-14T

③ウォークアップダッシュ  50m × 3本 インターバル 2周( 800m) 49-14T

 

①~③のメニューはいずれもウォークアップ(歩く程度のスピード)からのダッシュ練習で、それぞれ距離と使用ギア(負荷)が少しずつ違っていますが、どのトレーニングもダッシュ3本を一定の休憩をはさみながら行っています。

①49-15Tと比較的軽いギアを使用して200mダッシュトレーニング。

1本目は初動のトルクが掛かりある程度負荷のあるダッシュトレーニングが行えますが、1200m時間にして約4~5分程度のインターバルでは酸素負債が完全に解消することはなく、2本目以降は初動の出力が低下していくことが考えられます。その為このトレーニングは低速域からの高出力を発揮するダッシュトレーニングではなく、中速域からの加速力を強化していく事を主目的としたダッシュトレーニングと考える事が出来ます。

 

②49-14Tとやや重めのギアを使用しての200mダッシュトレーニング。

15Tの時と比較して低速域で掛かる負荷は増加してより大きなトルクの出力が求められます。しかも高負荷のダッシュトレーニングにしては走行距離が200mと長いため、レペテーショントレーニング(完全回復を待って行う)であればともかく、4~5分程度でのインターバルでは酸素負債からの回復は見込めずダッシュトレーニングというよりは耐乳酸系のトレーニング要素が増えてくると言って良いでしょう。

 

③49-14Tとやや重めのギアを使用して50mとかなり短い距離のダッシュトレーニング。

低速域での負荷は②と変わらないものの、距離が短く動作時間(約5~7秒)がATP-CP系の運動時間内にあるため、酸素負債が殆ど起こらないため低速域から最大出力のダッシュトレーニングが行えます。800m時間にして3分程度のインターバルでもATP-CP系のエネルギー源クレアチンリン酸の回復は見込めるため、インターバル形式で3本行ってもトレーニング効果は低下しないと考えられます。

 

このように、一般的に行われているダッシュトレーニング1つ取っても、身体に与える生理作用はそれぞれ変わってきてしまいます。どのトレーニング方法にもそれぞれトレーニング効果が有りますが、大切な事は選手に取って必要なトレーニングを理解してメニューを作成することです。そこでトレーナーズハウスで行うトラックの基礎トレーニングでは、自転車を走らせるための基本動作を3分割しそれぞれの目的に応じたトレーニングメニューを組み立てて行きます。

 

[基礎トレーニングプログラム]

 

①低速からのダッシュトレーニング(30~80m)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静止状態もしくは低速からのダッシュに必要とされる最大トルクの強化を目的に、主動作筋の筋力強化のみならず、最大出力に必要なポジショニングの為に補助的に動作する筋力及び筋バランスの向上、最大出力を向上させるための神経シナプスの向上などの生理作用を考慮したトレーニングプログラムを実施します。

 

②中速域からのダッシュトレーニング(100m)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ケイデンスの上昇に伴い変化するペダルに対する加重をコントロールするために、必要な上半身・コアと下半身の連動を意識したトレーニングプログラムを実施します。

 

③シッティングポジションでのトップスピード及びスピード持久力強化の為のトレーニング(600m)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シッティングポジションでの加速、トップスピードの維持に欠かせないハムストリングス及び殿筋の強化を中心に、ポジション維持の為に必要な筋バランスを考慮したトレーニングプログラムを実施します。

 

この基礎トレーニングプログラムを見て感のいい人ならもう気がついていると思いますが、この3つのトレーニングの走行距離を合計するとほぼ1000mになります。そうなんです。この基礎トレーニングプログラムは1000mTTに必要なダッシュ力・パワー・上半身と下半身の連動・スピード持久力と言った要素を、それぞれ個別に強化し総合力を高めていこうというトレーニングプログラムです。

ここまでのプログラムでウォーミングアップ開始から約3時間を要しますが、その後は選手個々の競技力に応じてダッシュ系・持久系・技術系のプログラムを追加し、最後にリカバリーを入れて半日のメニューが終了となります。

もちろんこれはあくまで基本的なプログラムで、実際に指導する選手はトラック短距離の選手だけではなくトラック中長距離の選手やロード選手もいますので、中長距離系の選手に必要な有酸素能力向上トレーニングや、長距離選手にありがちなスタビリティー向上・筋バランスの改善の為のトレーニングなども組み入れて行きます。

 

TRAINER'S HOUSE 代表 : 佐藤一朗

略歴 : 中央大学商学部会計学科卒
   湘南医療福祉専門学校東洋療法本科卒
   自転車競技 世界選手権 元日本代表
   プロ競技選手 NKG63th ('89~'06)

資格 : 厚生労働大臣認可・国家資格
   はり師 きゅう師 あん摩マッサージ指圧師
   日本体育協会 公認コーチ(自転車競技)

web site  http://www.trainers-house.net/

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